2010年3月21日日曜日

*Trauma

●心の傷(トラウマ・Trauma)

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よく親から、「心の傷は消えるものでしょうか」
という質問を受ける。

親自身の傷のこともあるし、子どもの傷のことも
ある。
そういうとき私は、率直に、こう答えるように
している。

「顔についた切り傷のようなもので、消えません。
一生、それこそ死ぬまで残ります。
だから消そうと思わないこと。
仲よくつきあうことだけを考えてください」と。

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●程度と内容

 心の傷といっても、程度の問題がある。
内容の問題もある。
それに年齢的な問題もある。
当然のことながら、程度が大きければ大きいほど、また内容が深ければ深いほど、心の傷は大きくなる。
また乳幼児期ほど、心の傷は大きくなる。

 原因としては、家庭騒動、育児拒否、冷淡、無視、暴力、虐待、離婚騒動、夫婦げんかなど。
大きな事件が、原因となることもある。

 10年ほど前のことだが、近くの佐鳴湖で、水死体があがった。
女性だったというが、それがどうその小学校の子どもたちに伝わったかは知らない。
しかししばらくの間、その小学校の子どもたちはパニック状態になってしまったという。
佐鳴湖の話をしただけで震えたり、学校へ行けなくなってしまったりした。

 ほかに、地震や災害など。
戦争もそのひとつ。
両親が目の前で殺されるのを見たあと、失語症になってしまった女性の話も聞いたことがある。
殺されるのを見たのは、10歳前後のこと。
その女性(20歳くらい)は、固く口を閉ざしたまま、一言もしゃべらなくなってしまったという(NHKテレビの報道番組の中で)。

●症状

 心の傷による症状は、千差万別。
しかもその直後に出ることもあれば、思春期以後、おとなになってから出ることもある。
直接的な因果関係がわからないケースも多い。
ある女性(30歳くらい)は、体の震えに悩まされていた。
毎晩、寝る前になると、それが出た。
原因はよくわからないが、幼児期の離婚騒動が原因ではないかと、何かのBLOGに書いていた。

 私にも似たような症状があった。
私のばあいも、長い間、原因はわからなかったが、ある夜のこと。
そのとき私はふとんの中で、ワイフに私の子どものころの話をしていた。
私の父は酒癖が悪く、2、3日に一度の割で、酒を飲んで、家の中で暴れた。
その中でも、父がとくに暴れた夜があった。
私が6歳くらいのときのことだった。

その夜の話をしていたときのこと、同じ症状が私に現れた。
言いようのない不安感に襲われ、体がガタガタと震えだした。
「こわいよう」「こわいよう」と言って、私はワイフに抱きついていった。
それで原因がわかった。

 子どものばあい、症状は、まさに千差万別。
神経症、不安神経症、拒否症、恐怖症、夜尿症、夜驚症などなど。
原因を特定するのは、たいへんむずかしい。
深刻なケースとなると、多重人格性をもつこともある。

 ある女の子(2歳児)は、母親に強く叱られたあと、1人2役の、独り言を言うようになってしまった(ある母親からの相談より)。
あるいは祖父にはげしく叱られたのが原因で、その直後から、ニヤニヤと意味のわからない笑いを繰り返すようになってしまった子ども(5歳男児)もいる。

●仲よくつきあう

 だれしも心の傷のひとつやふたつはもっている。
心の傷のない人はいない。
そういう前提で、この問題は考える。

 「消そう」と考えて、消えるものではない。
過去をうらんだところで、これまたしかたない。
だからあとは、うまくつきあう。

 まずいのは、そういう心の傷があることに気づかず、同じ失敗を繰り返すこと。
心の傷に振り回されること。

ただ重篤なばあいは、心の病気となることもある。
最近の研究によれば、うつ病の「種」も、そのほとんどが、幼児期の不適切な家庭環境の中で作られるということまでわかってきた(九州大学)。

 そこで大切なことは、まず「私」を知ること。
どういう環境で、どのように育てられたかを知る。
直接的にわからなければ、親類や兄弟の話を聞くのもよい。
あるいは自分の生活習慣やクセから、類推するのもよい。

 私のばあい、小学生のころ、学校からまっすぐ家に帰ったことがなかった。
そういうことから、私は自分が、帰宅拒否児であったことを知った。
そういうふうにして、自分を探っていく。

 心の傷というのは、正体がわかれば、あとは時間が解決してくれる。
10年とか20年とか、時間はかかるが、時間が解決してくれる。
あとはできるだけその問題には触れないようにし、忘れる。
遠ざかる。

●付記

 私たち日本人は、いまだに(子ども)を、(モノ)ととらえる傾向が強い。
未熟で未完成な人間である、と。
そのため子どもの心を安易に考える人が多い。
中には、「子どもの心など、どうにでもなる」、つまり「おとなになってから、いくらでも作り替えられる」などと、乱暴な考え方をする人もいる。

 しかしこうした考え方は、明らかにまちがっている。
つまりそういう原点から、もう一度、この問題を考えなおしてみる。
結論を言えば、乳幼児期の子育ては、それほどまでに慎重でなければならないということ。
心の傷など、なければないで、ないほうがよいに決まっている。

(はやし浩司 家庭教育 育児 教育評論 幼児教育 子育て Hiroshi Hayashi 林浩司 BW はやし浩司 心の傷 トラウマ 子どもの心の傷 子供の心の傷 トラウマ論)


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