2012年4月13日金曜日

North Korean's Missile

【極東情勢・論理的分析】(この原稿は、2012年4月12日の夜に書いたものです。)

●発射延期?

 12日(2012年4月12日、本日)と思われていた、北朝鮮のミサイル発射実験が、どうやら14日になりそうな気配になってきた。
表向きの理由は、『点火用燃料(始動燃料)の注入が、まだすんでいない』※(中央日報紙)とのこと。

(注※)『この消息筋は、ミサイル推進体への燃料注入は11日に終わったが、点火用燃料(始動燃料)の注入が済んでいないとした上で、「始動燃料は発射の1日前に注入される」と述べた。
13日に点火用燃料を注入し、14日に打ち上げられると予想した』(韓国・中央日報)と。

●論理

 現在の北朝鮮を取り巻く、極東アジア情勢を、論理的に分析してみよう。

(1) 北朝鮮は、今回のミサイル発射実験は、ミサイルではなく、人工衛星を打ち上げるためのものだと、かねてから強く主張している。

(2) その人工衛星について、各国の専門家は、人工衛星ではないのではないかと疑問を抱いている。

とくに韓国は、「おもちゃ」と断言している。

(3) アメリカと韓国は、ミサイル本体はもちろん、人工衛星の打ち上げに失敗したばあいには、人工衛星そのものを回収すると、明言している。

(4) これに対して、北朝鮮側は、ミサイル本体はもちろん、人工衛星の回収作業を始めたら、即、(軍事的)報復を加えると述べている(朝鮮中央放送)。

●まずい!

 ミサイル発射実験の失敗はもちろん、それ以上に、人工衛星本体が、それによってアメリカ側の手に渡ったとしたら……?
北朝鮮にとって、これはほど、(まずいこと)はない。
赤恥をかくだけでは、すまない。
「人工衛星説」が総崩れになるだけでは、すまない。
国連安保理による北朝鮮への制裁決議を、まともに受けることになる。

 そこで北朝鮮は、「(軍事的)報復」という言葉を使っている。
が、ここで論理の第1歩が、入り口のところで矛盾する。

 どうして回収作業に対して、(軍事的)報復なのか?
ふつうなら、こう言う。
「回収したら、それは我が国の所有物だから、すみやかに返還を求める」と。

なぜ北朝鮮が、かくも強硬な言葉を使い、回収作業を警戒するのか。
理由は言うまでもなく、積んであるのが、ただの「おもちゃ」(韓国政府)であることを、北朝鮮自身がよく知っているからにほかならない。

●ヒドラジン

 なぜ、12日の予定が、14日(?)に、延期されたか。
その前に、「ヒドラジン」なるミサイル用燃料について、調べておきたい。
日本のH2Aロケットなどは、液体水素を燃料に使っている。
が、液体水素は、製造するのに手間もかかるし、扱い方も難しい。
そこで、「ヒドラジン」。

 ヒドラジンについて、ウィキペディア百科事典には、つぎのようにある。

『アンモニアに似た刺激臭を持つ無色の液体で、空気に触れると白煙を生じる。
水に易溶。強い還元性を持ち、分解しやすい。
引火性があり、ロケットや航空機の燃料として用いられる。
常温での保存が可能であるため、ロシアなどのミサイルの燃料としても広く用いられており、また人工衛星や宇宙探査機の姿勢制御用の燃料としても使われている』(以上、ウィキペディア百科事典)と。

 「常温での保存が可能である」という点が、とくに重要である。
液体水素は、『水素原子や水素分子はあまりにも小さいため、金属容器に詰めてもその金属内部に浸透してゆき金属を劣化させる水素脆化を引き起こすので現状では長期保管が困難である』(ウィキペディア百科事典)という点で、長期保管には向かない。

 ミサイルなどのような緊急性を必要とするようなロケットには、液体水素は向かない。
さらに北朝鮮のような周囲科学、周囲技術が、恐ろしく貧弱な国にあっては、液体水素そのものが、製造できない。
加えて現在の製造方法では、アルミニウムの精錬と同じ程度の、多量の電力を必要とする。
北朝鮮では、その電力そのものが、不足している。

●2つの可能性

 なぜ、12日が、14日になったか?

 それについては、冒頭で、2つの可能性を書いた。
が、実は、もうひとつの可能性がある。
それを暗示するのが、つぎの記事である。

『【ソウル聯合ニュース】韓国政府は12日、北朝鮮の「衛星」打ち上げと主張する長距離弾道ミサイル発射に備え、国民の安全と有事の際の迅速な対応に向け「全行政機関に公務員の勤務紀綱確立のための指針を通告した」と明らかにした。

 指針では全行政機関が当直勤務を徹底し、非常連絡体制を維持するよう求めた。
また、有事に備え危機管理状況室の運営を準備するほか、関係機関の協力、重要施設の警戒・警備の強化を促した』(韓国・中央日報・4月12日)と。

 つまり韓国政府は、「非常連絡体制」を、全行政機関に敷いた、と。

 いったい、これは何を意味するのか。
たかがミサイル一発程度のことで、しかも、北朝鮮側の主張によれば、たかが人工衛星一個の打ち上げ程度のことで、「非常連絡体制」とは?

●非常連絡体制

 この「非常連絡体制」を裏側から読むと、こうなる。
つまり韓国政府側は、北朝鮮側の異常な動きを、すでに察知している、と。
その異常な動きに対して、韓国政府側は、「非常連絡体制」を敷いた。

 この時点では、まだ「戦時体制」とか、「戒厳令」とかいう言葉は使えない。
(本当は、そういう言葉を使いたいのだろうが……。)
そういう言葉を使えば、かえって北朝鮮を刺激してしまうことになりかねない。

 原則論を先に言えば、韓国にしても、北朝鮮との戦争は、避けたい。

●シナリオ

 最悪のシナリオはこうだ。

(1) ミサイルの発射実験が、失敗する。
(2) アメリカと韓国は、弾頭部の回収作業を開始する。
(3) 北朝鮮側は、それを阻止しよと、軍事的妨害工作を加える。
(4) アメリカと韓国は、それに対して、報復攻撃を加える。
(5) 一気に、戦局が拡大する。

 そこで北朝鮮としては、今回のミサイル発射実験を、100%、成功させなければならない。
おもちゃでも何でもよいから、宇宙に、飛翔体を打ち上げなければならない。
しかし「100%」というのは、難しい。
何かの報道によれば、「成功率は95%」という数字も出ている。
根拠はわからないが、北朝鮮にすれば、残りの「5%」でも、恐ろしい。

言い換えると、その「5%」が解消されないかぎり、北朝鮮は、最後の発射ボタンを押すことができない。
さらに言い換えると、その「5%」がある以上、北朝鮮は、同時に報復攻撃の準備を始めなければならない。

 その動きを、韓国側が、察知した。
先に書いた、「非常連絡体制」というのは、それをいう。

●人民日報

 ついでに北朝鮮内部から、今回のミサイル発射実験をながめてみよう。
北朝鮮にとって、今回のミサイル発射実験は、どういう意味があるのか。

 
中国・人民日報は、つぎのように報道している。

『……2012年4月11日、数日内にも発射すると考えられている北朝鮮の弾道ミサイルについて、北朝鮮はこの日、海外メディアの記者ら100人以上を招いて管制センターの様子を公開した。

 アメリカAP通信、仏AFP通信、英ロイター通信、そして共同通信など各国の記者100人超が集められ、4台のバスに分乗して、平壌の北西20kmにある「平壌衛星管制総合指揮所」を視察した。同指揮所の白正浩(Paek Chung Ho)所長によると、今回のメディア公開は「北朝鮮最高指導者・金正恩氏の特別な指示によるもの」であり、公正で客観的な報道を求めた。

 白所長は今回の“衛星”打ち上げに際して非常に感激し、また緊張を感じているが、「衛星発射は必ず成功する、なぜならば金正恩氏がすべてのプロセスにおいて自ら指揮を執られているからだ」と自信を交えて語ったという』と。

●官僚主義

 この日本では、役人と呼ばれる人たちが、自らの失政に対して、責任を取った例はない。
(もちろん刑事犯、ハレンチ罪は別である。)
それが官僚主義と呼ばれる所以(ゆえん)の一つでもある。

 そこで役人たちは、何をするにも、他方で、万が一のために、責任逃れの方便を用意する。
そのひとつ……というか、その典型的な例が、先の、平壌衛星管制総合指揮所の同指揮所の白正浩(Paek Chung Ho)所長の言葉。
注意深く読んでみてほしい、
こうある。

「衛星発射は必ず成功する、なぜならば金正恩氏がすべてのプロセスにおいて自ら指揮を執られているからだ」と。

 実に巧みな言葉である。
一見、金正恩を称賛しながら、万が一にも失敗しても、それは私の責任ではない。
金正恩の責任である、と。
 もちろんミサイルの発射実験が成功すれば、白正浩は、大英雄として称えられるであろう。
が、もし失敗すれば……。
はたしてそうはうまくいくか?
つまり白正浩の思惑通りにいくか?

 白正浩のこの言葉は、まさに両刃の剣。
もし失敗すれば、「すべての責任を、金正恩になすりつける用意をしていた」という罪で、ひょっとしたら銃殺刑に処せられるかもしれない。

 話はそれたが、官僚主義がどういうものかわかってほしかったから、白正浩の言葉を例にあげてみた。
なおほかの報道では、白正浩は、「100%」という言葉を使っている。
「100%、成功する」と。

●さて、どうなるか?

 さて、明日は、どうなるか?
今夜も、私はワイフと、賭けをした。
「お前は、失敗するほうに賭けるか、それとも成功するほうに賭けるか」と。

 ワイフはあっさりと、「失敗するに決まっているわ」と。

私「失敗といってもだよ、レベルがあるよ」
ワ「そうね……」
私「飛ぶには飛んだが、人工衛星なるものが、宇宙にあがらなかったとしたら、失敗だよ」ワ「北朝鮮は、それでも成功と発表するでしょうね」と。

 私は、失敗するとみている。
そう思う根拠は、あのロケット。
報道された映像を見ると、ロケットの表面が、どこかボコボコ。
白く色は塗ってあるが、塗りむらさえ、わかる。
超精密機械であるはずのロケットが、ボコボコ?
色むら?
いくら使い捨てのミサイルでも、あまりにもお粗末。
内部構造も、その程度と考えてよい。

 ともあれ、私は失敗を望む。
北朝鮮が、赤恥をかくことを望む。
14日は、ただひたすら注視あるのみ。
もし失敗したら、ワイフと2人で、養命酒で乾杯!

【4月13日、追記】2012年4月13日記

 北朝鮮のミサイル発射実験は、みごとに、失敗した。


Hiroshi Hayashi+++++++April. 2012++++++はやし浩司・林浩司

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