2011年11月23日水曜日

*Independent Thinker

【思考回路(プロセス)と思考力】
Independent Thinker論

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思考回路とは何か?
ひとつの例として、私は田丸謙二先生のことを思い浮かべる。
田丸謙二先生は、50歳をすぎてから独学で中国語を学んだ。
いつも手紙で、「50歳を過ぎてからの独学はたいへんです」と書いていた。

その田丸謙二先生は、そのころよく中国へ行った。
年に数回という頻度ではなかったかと記憶している。
大の中国びいきで、そのことは田丸謙二先生のホームページを見てもわかる。
ホームページのトップには敦煌(とんこう)で撮った写真。
随所に、中国での写真が飾ってある。

tonnkou.jpg
(田丸謙二先生撮影)

が、ここからが田丸謙二先生のすごいところ。
田丸謙二先生は、そのあと中国化学界(南京)の総会で、記念講演をしている。
もちろん中国語で。

中国化学会.jpg
(田丸謙二先生のHPより転載)

つまりこれが思考回路である。
先生の脳の中には、そういう思考回路ができている。
「学ぶ」→「ものにする」という思考回路。
さらに詳しく書けば、「学びたい」→「どう学ぶか」という思考回路。
そうした思考回路ができている。
できているからこそ、中国科学院での記念講演ができた。

私たちにとって重要なのは、この思考回路。
情報ではなく、思考回路。
この思考回路をどう頭の中で作っていくか。
が、それは実は、乳幼児期から始まっている。
乳幼児期から形成される。
おとなになってからでは、遅い。
思考回路というのは、そういうもの。

脳科学の世界では、「思考プロセス」ともいう。
意味はややちがうが、「回路」のあるなしで、その人のものの考え方、さらには生き様は大きく異なってくる。
田丸謙二先生を例にあげるまでもない。

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●愚劣な情報

 先週、何かのテレビ番組を見た。
5分程度のことだったので、内容は断片的なもの。
その中で、司会者が、「歯磨きをするのは、食事のあとすぐあとがいいか、それともしばらくしてからのほうがいいか」と、質問していた。

 食後直後?
それとも食後、しばらく間をおいてから?

 私も瞬間あれこれと考えたが、専門家と言われる人が説明を始めたところで、自分の書斎に入った。

●歯磨き

 歯磨きなど、いちいちそこまで考えてする人はいない。
食べたものにもよる。
昼食か、夕食かにもよる。
場所にもよる。
レストランで1~2時間かけてディナーを楽しむときもある。

 甘いものを食べれば、口の中が何となくねばっこくなる。
そういうときは、すぐ磨く。
しかし仕事中のときは、そうはいかない。
歯磨きというのは、それができるとき、その場ですればよい。
いくら早くしたくても、できないときがある。
ばあいによっては、家に帰ってからということもある。
直後がよいとか、悪いとか、そんなことを議論するほうが、ナンセンス。

●150万時間

 もしこんな情報に振り回されていたら、頭の中が混乱する。
それだけが情報ではない。
磨き方。
歯ブラシの選び方、などなど。
ほかにもいろいろある。
それこそ重箱の底をほじり始めたら、きりがない。
つまりこれが、無用の情報。
……とまでは言えないにしても、テレビで全国に流さなければならないような情報ではない。

仮に視聴率が5%として、1億2000万人の中の、約600万人が見る。
その人たちが15分間、その番組を見たとするなら、延べ150万時間。
日本人全体で、150万時間を無駄にしたことになる。
(人間の一生を、80年とするなら、70万時間。
2人の人が、一生、同じ番組を繰り返し見たとすると、140万時間になる。)

●批判精神

 幸い私は、批判精神が旺盛。
いつごろから私がそうなったかはわからないが、小学1、2年生のときには、そうなっていた。
前にも書いたが、小学3年生のときのこと。
私の家に、10数人の人たちが集まっていた。
「M・倫理研究会」という団体に、私の父が入っていた。
その団体が、定期的に各家庭を回って、座談会のようなものを開いていた。
私もそのとき、それを聞いていた。

 その中で、中央に座った男性が、「親の因果、子にたたり……」というような話をした。で、その直後私に向かって、その男性が、こう聞いた。
「そこにいるぼく、君はどう思うかね?」と。

 が、私はこう言った。
「そんなもの、ありません」と。
「たたりなどない」という意味で、そう言った。
まわりの人たちが、シーンとしたというか、ざわめいたのを脳のどこかで記憶している。

●自己実現のための思考回路

 このことは、子どもたちを観察していると、よくわかる。
思考回路のできている子どもは、自分の思考回路に沿って、ものを考え、行動する。
どうすれば自分の夢を実現させることができるか、それをよく知っている。
発達心理学の世界では、それを「自己実現」という言葉を使って説明する。
自分の夢や希望を、やがて目的に昇華し、その目的に向かって努力していく。
その「力」を、「自己実現能力」という。

 たとえば昔、宇宙飛行士になりたいと言っていた子どもがいた。
たまたまペットボトルのロケット実験で、市長賞を取ったこともある。
中学生のときのことだった。
で、最近その消息を聞くと、あのNASDAで、本当に宇宙ロケットを設計しているという。
その子どもは自分の思考回路に従い、自分の夢を実現した。

 その思考回路については、たびたび書いてきた。
原稿を探してみる。

Hiroshi Hayashi++++++はやし浩司

【思考回路】

●夢や希望を育てる
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 たとえば子どもが、「花屋さんになりたい」と言ったとする。そのとき重要なことは、親
は、それに答えて、「そうね、花屋さんはすてきね」「明日、球根を買ってきて、育てて
みましょうか」「お花の図鑑を買ってきましょうか」と、子どもの夢や希望を、育ててや
ること。
が、たいていの親は、この段階で、子どもの夢や希望を、つぶしてしまう。
そし
てこう言う。
「花屋さんも、いいけど、ちゃんと漢字も覚えてね」と。

●子どもを伸ばす三種の神器
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 子どもを伸ばす、三種の神器が、夢、目的、希望。
しかし今、夢のない子どもがふえた。
中学生だと、ほとんどが、夢をもっていない。
また「明日は、きっといいことがある」と
思って、一日を終える子どもは、男子30%、女子35%にすぎない(「日本社会子ども
学会」、全国の小学生3226人を対象に、04年度調査)。
子どもの夢を大切に、それを伸ばすのは、親の義務と、心得る。

●役割混乱
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 子どもは、成長するにつれて、心の充実をはかる。
これを内面化というが、そのとき同時に、「自分らしさ」を形成していく。
「花屋さんになりたい」と言った子どもは、いつの間にか、自分の周囲に、それらしさを作っていく。これを「役割形成」という。
子どもを伸ばすコツは、その役割形成を、じょうずに育てていく。
それを破壊すると、子どもは、「役割混乱」を起こし、精神的にも、情緒的にも、たいへん不安定になり、混乱する。

http://www2.wbs.ne.jp/~hhayashi/++++++++++++++++はやし浩司

●思考プロセス(回路)
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 しかし重要なのは、「思考プロセス」。
幼いときは、「花屋さんになりたい」と思ってがんばっていた子どもが、年齢とともに、今度は、「看護婦さんになりたい」と言うかもしれない。
しかし幼いときに、花屋さんになりたいと思ってがんばっていた道筋、あるいは思考プロセスは、そのまま残る。
その道筋に、花屋さんにかわって、今度は、看護婦が、そこへ入る。
中身はかわるかもしれないが、今度は、子どもは、看護婦さんになるために、がんばり始める。

●進学校と受験勉強
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 たいへんよく誤解されるが、「いい高校」「いい大学」へ入ることは、一昔前までは、目
的になりえたが、今は、そういう時代ではない。
学歴社会を支える、権威主義社会そのものが崩壊してしまった。
親は、旧態依然の考え方で、「いい大学へ入ることが目的」と考えやすいが、子どもにとっては、それは、ここでいう目的ではない。
「受験が近いから、(好きな)サッカーをやめて、受験塾へ行きなさい」と子どもを追うことで、親は子どもの夢をつぶす。
「つぶしている」という意識すらないまま……。

●これからはプロの時代
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 これからはプロが生き残る時代。
オールマイティなジェネラリストより、一芸にひいでたプロのほうが、尊重される。
大手のT自動車の面接試験でも、学歴不問。
そのかわり、「君は何ができるか?」と聞かれる時代になってきている。
大切なことは、子どもが、生き生きと、自分の人生を歩んでいくこと。
そのためにも、子どもの一芸を大切にする。「これだけは、だれにも負けない」というものを、子どもの中につくる。
それが将来、子どもを伸ばす。

●大学生の問題
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 現在、ほとんどの高校生は、入れる大学の入れる学部という視点で、大学や学部を選ん
でいる。
もともと、勉強する目的すらもっていない。
そのため、入学すると同時に、無気力になってしまったり、遊びに夢中になってしまう大学生が多い。
燃え尽きてしまったり、荷おろし症候群といって、いわゆる心が宙ぶらりんになってしまう子どもも多い。
当然、誘惑にも弱くなる。

●自我の同一性と役割形成
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 子どもをまっすぐ伸ばすためには、(子どもがしたがっていること)を、(現在している
こと)に一致させていく。
そしてそれを励まし、伸ばす。親の価値観だけで、「それはつまらない仕事」「そんなことは意味がない」などと、言ってはいけない。
繰りかえすが、子どもが、「お花屋さんになりたい」と言ったら、すかさず、「それはすてきね」と言ってあげる。
こういう育児姿勢が、子どもを、まっすぐ伸ばす基礎をつくる。

●結果はあとからついてくるよ!
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 大切なことは、今できることを、懸命にすることだよ。
結果は、あとからついてくる。
またその結果がたとえ悪くても、気にしてはいけないよ。
ぼくたちの目的は、失敗にめげず、前に進むことだよ。
あの「宝島」を書いたスティーブンソンは、そう言っているよ。

●子育ては工夫
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 子育ては工夫に始まって、工夫に終わる。
わかりやすく言えば、知恵比べ。
この知恵比べによって、子どもは、伸びる。
が、それだけではない。
何か問題が起きたときも、同じ。
家庭環境は千差万別。状態も状況も、みなちがう。
子どもについて言うなら、性格も性質も、みなちがう。
能力もちがう。そんなわけで、「子育ては知恵くらべ」と心得る。
この知恵比べが、前向きにできる人を、賢い親という。

●内政不干渉
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 たとえ親類でも、兄弟でも、内政については、干渉しない。
相手が相談をもちかけてきたときは別として、こちらからあれこれアドバイスしたり、口を出したりしてはいけない。
相手を説教するなどということは、タブー中のタブー。
ばあいによっては、それだけで、人間関係は、破壊される。
それぞれの家庭には、人には言うに言われぬ事情というものがある。
その事情も知らないで、つまり自分の頭の中だけで考えてものを言うのは、たいへ
ん危険なことである。

Hiroshi Hayashi++++++はやし浩司

●思考回路

 よく私はこんな説明をする。
私はこうしてものを書くのが好きだから、何か問題が起きると、すぐ、文章によってそれを解決しようとする。
また文章でないと、落ち着かない。
そのため口約束というものを、信用しない。

 が、たとえば暴力団と呼ばれる人たちはどうだろうか。
本当のところそういう人たちがどういう思考回路をもっているか、私には、わからない。
わからないが多分、何か問題が起きると、暴力によって解決しようとするかもしれない。
それが思考回路(厳密には、行動回路)ということになる。

 で、この思考回路は、人によってみなちがう。
問題への対処の仕方が、みなちがう。
もちろん夢や希望をもったとき、その実現方法も、みなちがう。
人それぞれだが、ではあなたはどうか?
あなたにも、その思考回路があるはず。

●田丸謙二先生

 同じ「学ぶ」といっても、私と田丸謙二先生とは、ちがう。
たとえば私は、今、外国語をマスターしたいという気持ちは、ほとんどない。
ないから、それを実現しようというエネルギーがわいてこない。
もしそれだけのエネルギーと時間があれば、もっとほかの面に向けたい。

 が、田丸謙二先生は、研究者として、若い時から、そういう思考回路をもっていた。
並大抵のチャレンジ精神ではない。
未開の分野を切り開いていく。
そのことは、日本触媒学会の会長、国際触媒学会の会長という経歴をみてもわかる。
40年前の昔、「触媒」に目を向ける学者は少なかった。
が、今や、触媒なしでは、科学の世界は成り立たないほど、触媒は私たちの日常生活に溶け込んでいる。
もう一言、付け加えるなら、田丸謙二先生のような研究者がいたからこそ、この分野では日本は世界のトップを走っている。
それがチャレンジ精神であり、それを実現していく道筋が、思考回路ということになる。

●終わりに……

 そこで私やあなたには、どんな思考回路があるか。
それを少しだけ、探ってみるとおもしろい。
あるいはあなたの子どもでもよい。

たとえば何かの夢や希望があったとする。
問題でもよい。
あなたはそれを、どのような形で実現したり、解決したりするだろうか。
が、中には不幸にして、その思考回路そのものがない人(子ども)もいる。
その時々の波にのまれ、のまれるまま、右往左往する。
子どもにたとえるなら、夢や希望にしても、とんでもないものをもったりする。
「ぼくは、ゴレンジャーになりたい」とか、など。

 最後に私が心配するのは、今、その思考回路のない人(子ども)が、多いということ。
考え方や行動に、一本の筋が通っていない。
発達心理学風に表現すれば、自我の確立に失敗し、役割混乱を起こしている。
そしてそのままおとなになり、社会人になる。
だからいつもこう悩む。
「私とは何か?」と。

 いつも心のどこかに不完全燃焼感をもち、その日その日を、ただ何となく過ごす……。
ここでいう(思考回路)には、そういう問題も含まれている。

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Hiroshi Hayashi+++++++Nov. 2011++++++はやし浩司・林浩司

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