2011年7月4日月曜日

●孫が親をせかし、遺産相続裁判?

【欲望の奴隷たち】(壊れる子どもの心)

●孫が、裁判?

 長野県に住む友人が、こう言った。
大学の同窓生で、司法書士をしている。
「林君なあ、今はなあ、孫がなあ、親をたきつけて、遺産相続の裁判を起こす時代なんだよなあ」と。

 少しわかりにくい話で、ごめん。
が、こういうこと。

親が死ねば、争うとしても、ふつうは遺産相続権がある実子が、遺産分割を求めて裁判を起こす。
「私にも、分け前をもらう権利がある」と。

 が、最近は、そもそも遺産相続権のない孫が、親を前に立て、遺産分割を求めて裁判を起こす。
そんなケースがふえてきた、と。
「親父にだって、遺産相続をする権利がある。分け前をよこせ」と。
中には、親はいらないと言っているにもかかわらず、その子(つまり孫)が、「もらうべき」と言って騒ぐケースも多いという。
(実際には、そういうケースのほうが多いのだそうだが……。)

 わかりやすく言えば、ジーチャン、バーチャンが死ぬと、孫の立場の人間が、遺産分割を求めて裁判を起こす。
もちろん親が生きていれば、孫には、遺産相続権は、まだ発生していない。
つまり遺産相続権はない。
だから親をせかせ、裁判を起こす。

●身辺整理

 私も60歳を過ぎて、心境が大きく変化してきた。
そのひとつ。
モノを買わない。

 若いころは、好んで骨董品を買い集めた。
江戸時代の浮世絵を買い集めるため、北陸地方の都市を回ったこともある。
あるいは30代のころは、洋画に興味をもった。
ピカソの絵こそ手が届かなかったが、それ以外の画家の絵なら、たいてい集めた。
シャガール、ミロ、カトラン、ビュッフェ……。
ローランサンの絵も好きだった。
が、今にして思うと、どうしてあんなものを買い集めたのだろうと思う。
意味のない買い物だった。
だからときどき、ワイフにこう言う。

 「そのお金で、海外旅行をもっと楽しんでおけばよかった」と。

 で、今は、そういったものを、どんどん手放している。

●金(マネー)

 兄弟姉妹が、親の財産を取り合って争う。
私はその見苦しさを、あちこちで見聞きしている。
見苦しいというよりは、あさましい。
親の介護、葬儀、遺産分割とつづくうち、たいてい兄弟、姉妹はバラバラになる。
中には、「玄関先で怒鳴りあう」(知人)兄弟、姉妹もいる。

 だから親たる者、財産は、子どもには残さない。
額の問題ではない。
わずか数百万円のことで裁判を起こす人もいる。
反対に、それぞれが1億円以上もの財産を手にしながら、さらに争う人もいる。
そこで私たち夫婦は、こう決めた。

「ちょうど2人が死ぬころ、財産は、ゼロにしよう」と。

●欲望

 で、立場上、そんなことも考えながら、生徒たちをながめる。
兄弟、姉妹で、私の教室へ来てくれている子どもも多い。
そういう子どもたちをながめながら、「今は、仲がいいのだがなあ……」と。

 親にしても、そうだろう。
いつか自分の財産をめぐって、子どもどうしが争うなどいうことは、夢にも思っていない。
「自分が死んでも、息子や娘たちは仲がいいはず」と思いこんでいる。
あるいはそこまで考えが巡らない。
が、今のあなたがそうであるように、遺産には、恐ろしいほどの魔力が潜んでいる。
ジワジワと胸の中でふくらみ、やがて制御不能になる。
「1円でも多くもらわなければ、損!」と。

 つまり人間の欲望には、際限がない。
その欲望が、お金(マネー)に置き換わる。
あるいはその逆でもよい。
お金(マネー)が、欲望に置き換わる。

 しかし、いつから……?
どのようにして……?
反対に、「どうすれば、今のまま、いい兄弟姉妹関係をつづけることができるだろうか」と考えることもある。

●親に反抗するのは、こどもの自由

 昨日も書いたが、現在、この日本では、親子の立場が逆転している。
親が子どもにペコペコし、子どもが親に向かってふてくされる。
少し古い資料だが、こんな調査結果も残っている。

 「親に反抗するのは、子どもの自由でよい」と考えている日本の高校生は、85%。
「親に反抗してはいけない」と考えている高校生は、15%。

この数字を、アメリカや中国と比較してみると、親に反抗してもよい……アメリカ16%、中国15%。
親に反抗してはいけない……アメリカ82%、中国84%(財団法日本青少年研究所・98年調査)。

 日本だけは、親に反抗してもよいと考えている高校生が、ダントツに多く、反抗してはいけないと考えている高校生が、ダントツに少ない。

 こうした現象をとらえて、「日本の高校生たちの個人主義が、ますます進んでいる」(評論家OG氏)と論評する人がいる。
しかし本当にそうか。
この見方だと、なぜ日本の高校生だけがそうなのか、ということについて、説明がつかなくなってしまう。
日本だけがダントツに個人主義が進んでいるということはありえない。 
アメリカよりも個人主義が進んでいると考えるのもおかしい。

 もう一度、数字を確認しておきたい。

「親に反抗するのは、子どもの自由でよい」と考えている日本の高校生は、85%(アメリカ、16%)。
「親に反抗してはいけない」と考えている高校生は、15%(アメリカ、82%)。

 1998年の調査というから、そのときの高校生たちが、今、「親」をしている!

●壊れる心

 もちろん中には、そうでない兄弟姉妹も多い。
良好な関係をつづけている親子も多い。
しかし皮肉なことに、学歴社会とは無縁な世界で生きている人ほど、そういう人たちが多い。
一方、高学歴な人ほど、兄弟姉妹関係が、おかしい。
親子関係がおかしい。
私の言っていることがウソでないことは、ほんの少しだけ、あなたの周囲にいる人たちを観察してみればわかるはず。

 つまりこの問題は、どこかで学歴社会、それを支える受験競争とからんでいる。
私自身の印象としても、それを断言できる。
子ども(生徒)にしても、受験競争を、ほんの数か月(夏休みの1か月でもよい)経験しただけで、別人のようになってしまう子どもがいる。
親は、「やっと心構えができました」と喜んでいるが、その裏で、子どもの心が粉々に破壊されていることには、気づいていない。
親自身がその高学歴者であることが多い。
つまり自分の心が壊れているから、子どもの心が壊れても、それに気づかない。

●教育

 簡単に言えば、教育が欲望追求の場になっている。
教育とは名ばかり。
心を育てるしくみになっていない。
今では進学率の高い学校を、「よい学校」(?)という。
進学率というのは、より有名学校への進学率をいう。
(今さら、こんなことなど、説明する必要もないが……。)

 その結果が、現在ということになる。
何とも心さみしい社会だが、その弊害が、今、あちこちで矛盾となって噴き出している。
数日前も、こんな調査結果が新聞に載った。

「60%の人が、今後、孤独死をする」(中日新聞)と。
記憶によるものなので、数字、内容は不正確だが、NHK「無縁社会、無縁死3万2千人の衝撃」(2010年放映)という番組によれば、無縁死をした人が、3万2000人もいるという。
これに孤独死を加えたら、その数はさらに多くなる。

 が、これはけっして老人だけの問題ではない。
40代、50代の人たち自身も、その予備軍と考えてよい。

●では、どうするか?

 これは意識の問題。
その意識を変えるのは、容易なことではない。
10年単位というより、世代単位の問題でもある。
冒頭にも書いたように、親から子、さらに孫の代まで、意識が毒され始めている。

 戦後日本は、高度成長によって多くのものを得たが、同時に、多くのものを失った。
その結果が、今、ここにある現実ということになる。
どうすればよいかということは、私にもわからない。
が、こういうことは言える。
そこにそういう現実があり、今、みなさんがそういう現実に向かって歩んでいるなら、それを避けることも可能ということ。

 まずいのは、それに気づかず、そのワナにはまってしまうこと。
気がついてみたら、周りにはだれもいない。
そうなってからでは、遅い。
手遅れ。
もっとも孤独死をしたからといって、それが人生の結論というわけではない。
人生の敗残者(負け犬)というわけではない。
大切なことは、それまでに(すべきこと)をやり遂げること。
有意義に生きること。

 そのための準備だけは、怠ってはいけない。
……という意味で、このエッセーを書いてみた。
異論もあるだろう。
反論もあるだろう。
ひとつの参考意見として、読んでもらえればうれしい。

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Hiroshi Hayashi+++++++July. 2011++++++はやし浩司・林浩司

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