2009年10月11日日曜日

*My Sister's Keeper

●映画『私の中のあなた』(感想)

 映画『私の中のあなた』は、淡々とした、あたかも事実だけを追うような形で、ストーリーは展開する。(お涙ちょうだい)式のわざとらしい演技もなく、それだけに観客を、静かにスクリーンの中に引き込んでいく。

 私はこの映画を見ながら、5、6年前に妻を肺がんで亡くした、オーストラリアの友人のことを思い出していた。葬儀には参列できなかったので、つづく娘さんの結婚式には列席させてもらった。そのときのこと。

 私がふと、「ルーシーが亡くなったとき、つらかっただろうね」と聞いたときのこと。その友人は、ポツリとこう言った。
「うれしかった……」と。
「どうして?」と言いかけると、「ルーシーが、あの痛みから解放されたんだから」とも。
 それを聞いて、人を本当に愛するということは、そういうことなのかと、私は知った。

 映画『私の中のあなた』では、死にゆく人、そしてそれを見送る人。この両者の心のはげしい葛藤がつづく。静かに。どこまでも静かに。そして最後はその両者の愛が、ひとつの結晶となったところで、映画は終わる。

 ついでながら、オーストラリアの友人は、その後1年ほどして、もう一人の娘さんに連れられて、私の家を訪れてくれた。あちこちをいっしょに、旅をした。で、ある夜のこと。私が「学生時代に歌った歌を、いっしょに歌わないか」と声をかけたとき、その友人は、こう言った。

「ヒロシ、ぼくはルーシーが病気になってから、歌を歌ったことがない」と。そしてその夜も、歌を歌うことはなかった。私はその言葉を聞いて、熱い涙が私のまぶたを下から押し上げるのを感じた。

 映画『私の中のあなた』を見たときも、あの夜と同じ熱い涙を覚えた。泣いた。すばらしい映画だった。

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