2009年11月6日金曜日

*Teachers with some Mental Problems

●『心を病む新人先生』(中日新聞)

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中日新聞に、こんな記事が載っていた。
「心を病む新人先生」と題して、
「依願退職、304人中、88人」と。

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●304人中、88人!

 ギョッ! 

大見出しを読んで、驚かなかった人はいないと思う。
「304人中、88人!」と。
しかし……。
つづきを書く前に、新聞の記事を、ていねいに読んでみよう。

 「(教師の)試用期間後に正式採用されずに辞めた公立学校の新人教員
304人のうち、88人は、うつなど、『精神疾患』による依願退職だった
ことが、4日、2008年度の文部科学省の調査でわかった」(中日新聞・
11月5日)と。

 ここまで読んだだけでは、まだよくわからない。
もう少し詳しく読んでみる……。

●中日新聞の記事より

 新採用の教員は、1年の条件付き採用(試用)期間のあと、正式採用となる。

そこで、「08年度に正式採用されなかった新人教師は、全採用者2万3920人の、
1. 3%。1999年度は、0・5%だった」(同紙)と。

「正式採用されなかった新人のうち、依願退職者は304人で、理由が病気だった
のは、93人。このうち88人が、精神疾患による退職だった」(同紙)と。

「『病気』は、04年度から増加傾向だった。文科省はストレスによる精神疾患
の可能性があるとみて、調査項目に加えた」(同紙)と。

 ……ここまで読んで、「304人中、88人」の意味が少しわかってきた。

●誤解

 この見出しを一読すると、「304人の新人教師のうち、88人が依願退職した」
というふうに解釈できる。
私も、最初、そう解釈した。
驚いた。
今までの常識と、あまりにもかけ離れている。
「4人に1人が退職?!」と。
しかしそんなことはありえない。

で、新聞記事をよく読むと、「新人教師として採用されなかった、304人のうち、
88人が精神疾患による依願退職だった」ということがわかる。

 さらにていねいに読むと、2万3920人のうちの、1・3%が、正式に
採用されなかったということがわかる。
となると記事の見出しとしては、たいへん誤解を招きやすいのでは、ということになる。
確認するため、電卓を叩いてみた。

 304÷2万3920=0・0127=約1.3%
確かに約1・3%である。

 その304人のうちの、88人が、「精神疾患による退職だった」と。
そこで、

 88÷2万3920で計算してみると、精神疾患による退職率は、約0・37%となる。
が、この数字は、それほど大きくない。
1000人に、3・7人=約4人ということである。
これくらいなら、どこの職場でも見られる数字である。

●精神疾患

そこでそれを確認するため、精神疾患の発症率を調べてみた。
うつ病の発症率だけをみても、25人に1人。
過去にうつ病に陥った経緯がある人を含めると、5~7人に1人(14~25%)。
「他の統計では、男性7%、女性19%がうつ病を経験しており、アメリカに
おける、男性10%、女性25%と、ほぼ一致する」(「医療法人・清風会HP」)と。

 「5~7人に1人」というのは、間の「6人」を取って計算すると、約17%の人が、
うつ病を発症するということになる。
「軽度うつ病」「仮面うつ病」さらには、「プチ・うつ病」となると、もっと多い。
さらに罹患率と通院率は、ちがう。
離職率とも、ちがう、などなど。
しかしこれはすべての年代の人を含むので、単純には比較できないが、「0・37%
というのは、やはり、とくに目立った数字ではない」ということになる。

 さらにうつ病だけが精神疾患というわけではない。
たとえば若い人たちに多い、「思春期やせ症」(摂食障害)だけをみても、
研究者によって、発症率は、「10万人あたり、0・38~79・6人」(「中本精神分析クリニック」HP)という。
「80人」で計算すると、0・08%。
精神疾患といっても、ほかにも、いろいろある。

こうして考えていくと、中日新聞の記事には、「?マーク」がつく。
中日新聞の記事というよりは、「文科省はストレスによる精神疾患の可能性がある
とみて、調査項目に加えた」という部分に、「?マーク」がつく。

●0・5%から1・3%に

 つまり0・37%という数字だけを見るかぎり、それほど多くない。
ごく平均的な数字ということになる。
とは言え、実際には、何らかの精神疾患を発症しながらも、通院や服薬などでがんばって
いる教員も多いはず。
みながみな、依願退職するわけではない。
一方、若い新人教師だと、ほかの年代の教師よりも、離職率は高いかもしれない。
となると、08年は、99年度よりも「ふえた」という部分に注目しなければ
ならない。

「1999年度には、0・5%だったが、08年度には、1・3%になった」と。

 しかしこれについても、この10年間で、精神疾患に対する一般の考え方は、
大きく変わった。
(隠したい病気)から、(隠さなくてもよい病気)に変わった。
だから数字だけを見て、「多くなった」と断言するのは、危険なことかもしれない。
私の周辺でも、「ぼくはうつ病でね」と、堂々と言う人がふえている。
20年前とか30年前には、考えられなかった現象である。

●情報のリーク

 最初は、「!」と思った記事だが、よくよく読んでみると、「?」と思う記事に
変わることがある。
この記事も、そうである。

一方、こうした情報のリークというか、操作は、何らかの意図をもってなされる
ことが多い。
とくに中央の官僚たちが、一般に流す情報には、注意したほうがよい。
その中でも、文部科学省の流す情報には、注意したほうがよい。
で、このところあちこちのBLOGで気になるのは、「精神疾患に対する研究費をふやせ」
という発言である。
その布石として、こうした情報が流されたと考えられなくもない。

 念のため、繰り返す。

「304人中、88人」という見出しを見て、「304人の新人教師(試用期間中の
教師)の中の88人が、依願退職をした」と読んではいけない。
見出しだけ読んだ読者は、「先生って、たいへんだな!」(実際、たいへんだが)と
思って終わってしまうかもしれない。
しかし実際には、「依願退職した304人の新人教師のうち、88人が、何らかの
精神疾患で退職した」ということである。

 さらに付け加えれば、教職に就いたから、発症したというふうに考えるのも、
短絡的すぎる。
もともと何らかの精神疾患をかかえていた人もいるかもしれない。
ほかにもいろいろ考えられる。
が、ここまで。

●教職は重労働

 実際、この数字とは別として、教職というのは、たいへん。
本当にたいへん。
教師を取り巻く、雑務が多すぎる。
このあたりでも、児童が体育館でけがをしても、教師は家庭訪問をして、説明、謝罪する
のが、当たり前になっている(09年10月・K小学校、校長談)。

 そういう意味では、今回のこの数字の公表には、それなりの意味がある。
「先生もたいへん」ということが、一般の人たちにも、わかってほしい。

 ただし、この報告書の公表が、そのまま文部科学省の某研究団体の予算獲得のための
ものであるとするなら、私たちは、じゅうぶん警戒したほうがよい。

(はやし浩司 家庭教育 育児 教育評論 幼児教育 子育て Hiroshi Hayashi 林浩司 BW はやし浩司 教師の精神疾患 離職率 心を病む教師 新人教師 試用教師 心を病む先生)

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