【よく泣く子ども】
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幼稚園でよく泣く子どもについての
相談があった。
群馬県のO市で、幼稚園教諭をしている
TS先生という方からのものだった。
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【TS先生より、はやし浩司へ】
群馬県のO市で、幼稚園教諭をしているTSという者です。
現在、担任している年少3歳児K男について、ご相談させていただきます。
K男は、入園から半年が経ちましたが、保育時間のほとんどを泣いて過ごしています。
朝も泣いて登園し、自分から母親と離れることはできませんが、幼稚園を嫌がったことは一度もないそうです。
1学期は、身の回りのことが自分でできないことで不安になっているのではと思い、衣服の着脱や身支度の仕方などを根気よく教え、自分でできることも少しずつですが増えてきました。
その成果といえるかどうかわかりませんが、片づけ、手洗い・うがい、おやつや給食の準備、帰りの支度は、泣かずに自分でできるようになりました。
しかし、それ以外の場面では、私から離れることができず、泣き続けていて、遊びもほとんどできません。
夏休みに夏祭り盆踊りがあり、保護者が準備をしてくれている間、他の職員が、子どもたち(異学年・異クラス混合)を集めて、近くの児童館に連れて行く機会がありましたが、そのときもみんなと行けず、私と一緒に過ごしました。私と、1対1でかかわっている時には、泣きませんし、ちょっとした悪戯もするくらい元気です。こちらの言っていることの理解もできますし、おしゃべりもいっぱいするので、いつも集団の中で泣いている姿しか見ていない他の先生たちは、驚いていました。
2学期が始まると、さらに泣きがひどくなり、「おしっこが出たらどうしよう」「今日の帰りは、並ぶ?」など、先のことを心配して、何度も何度も同じことを繰り返し言って泣いています。
私も、できるだけ不安にならないように、そばにおいたり、見通しをもたせたりするようにしていますが、常に大きな声で泣いているので、正直なところ私もストレスになりますし、他の子たちも活動を十分楽しめないのではないかと思います。
母親に話を聞くと...
母親と2人だけでは外出することはできず、出かける時は、必ず祖父がK男の手を引いていく。
家庭訪問で私が指摘するまで、みんなと同じ食卓で食事をすることを嫌がるため、一人で別の部屋で食事をさせていたとのことです。
分離不安? 集団恐怖症? 何かあるのでは??と思うのですが、どうでしょうか。
母親は入園前から、パートの仕事をしていて、留守中は祖母と留守番ができるそうです。
母親が虚弱という話も聞いたので、入院するなどして母親と離れた経験がないかも聞いてみましたが、ないそうです。
K男に付いてもらえる職員はいないので、担任の私がかかわるしかないのですが、今まで以上に安心できるように寄り添った方がよいのか、必要以上にかかわり過ぎない方がよいのか、どのような姿勢でかかわっていったらよいのでしょうか。アドバイスをお願いします。
家族構成は、両親 祖父母(母方 別姓) 曾祖父母 本児です。
【はやし浩司より、TS先生へ】
私もいろいろな子どもに接してきました。
最初の半年間(実際には3か月ほど。以後、少しずつ机に向かって座ることができるようになった)、机の下で、机の脚にしがみついてレッスンを受けていた子ども(年少児)がいました。
下の子どもが生まれてから、はげしい赤ちゃん返りが起き、慢性的な発熱症状(年長女児)を示した子どももいました。
母子分離不安で、母親の姿が見えなくなっただけで、錯乱状態になった子どもの例となると、無数にあります。
幼児の世界は、TS先生がお気づきのように、実に複雑で、しかもいろいろな原因や症状が複合してしますので、こうした問題が起きたら、からんだ糸をほぐすような作業が必要になります。
短絡的に、「対人恐怖症」「これは赤ちゃん返り」「情緒不安」とかいうように結びつけることは、たいへん危険です。
(あとで述べますが、家庭環境からして、「対人恐怖症」による症状のひとつということはじゅうぶん、考えられます。)
基本的には、幼児は、何か心に大きな問題をかかえると、それを代償的に解消しようと、つぎの4つの行動のどれかを取ると考えてください。
(1)攻撃型(たとえば下の子どもを、「殺す」寸前までのことをする。)
(2)同情型(相手に同情を求め、弱々しい自分を本能的な部分から演ずる。演技と言うよりは、それが常態化しているため、意識的行為と言うよりは、無意識的な行為。メソメソと泣いて見せるのも、そのひとつ。)
(3)依存型(だれかに極端に依存することによって、心の問題を解消しようとする。)
(4)服従型(ほとんど何も考えず、親や教師の言いなりになり、言われた通りに行動を繰り返す。)
以上は、心理学の本などに出てくる定型的な症状ですが、このほかにも、(5)内閉型(カラの中に閉じこもってしまう)というのも、私は経験しています。
さらに同じ、同情型、依存型でも、暴力性を伴った攻撃型同情型、攻撃型依存型というのも経験しています。
●一般論として
またこういうケースのとき、親自身が気がついていないところで、子どもの心を傷つけているというのも、多々あります。
(親には、自分にとって都合の悪いこと、あるいは責任があることについては、心の隅に置き、封印してしまう傾向があります。
たとえば分離不安についても、ささいなことで、そうなります。
たとえば母親がたった3日、入院しただけで、そうなった子ども(2歳男児)がいます。
私がそれを指摘すると、「たった3日ですよ!」と、反論していました。
遊園地で迷子を経験しただけで、分離不安になってしまった子ども(3歳児)もいるくらいですから……。)
話を先に進める前に、「よく泣く子ども(日本では、「夜泣き」「疳の虫」という)」については、アメリカでもよく問題になっています。
そのためいろいろな「方式」が考えられています。
その中でも「ファーバー方式」というのは、とくによく知られています。
K男君のケースとは、直接的には関係ないと思われますが、参考までに、ここに原稿を添付しておきます。
Hiroshi Hayashi++++++はやし浩司(ファーバー方式)
●アメリカの育児、「ファーバー方式(FEBER METHOD)」(改)
●ファーバー方式
新生児の夜泣きの対処のしかたについて、アメリカには、「ファーバー方式」というのがある。
それについての紹介文を転載する。ファーバーというのは、その考案者の博士の名前をいう。
(義理の娘が通う、母親学級のテキストからの転載)
Your baby is crying, and wakes up several times during the night. Your'e exhausted, and haven't had a descent night sleep, what are you going to do? Ferberizing your baby will help your child sleep through the night and will help you from going mad from lack of sleep. Dr. Ferber, a leading pediatric sleep disorder specialist, has come up with a method guarantee to get your child sleeping through the night.
あなたの赤ちゃんが泣き、毎晩何度も起こされる。
あなたは消耗し、安らかな眠りを得られない。
そういうとき、どうしますか?
睡眠障害のスペシャリストのファーバー博士が、あなたの赤ちゃんが眠るのを助けます。
The Ferber method is a progressive method and it calls for the parents to let their babies cry for a set period of time before comforting or "checking in on their child". Although the Ferber method does work for some parents, others think that it is to rigid. It is important to read the book and to decide for yourself. Some of the mothers in my classes have modified his method to fit their schedules and tolerance levels.
ファーバー方式は、泣いている赤ちゃんをなぐさめたり、「あれこれ原因さがしをする」前に、ある程度泣かせるという方式です。
ファーバー方式は、有効なときもありますが、しかし厳格すぎるという人もいます。
大切なことは、あなた自身が自分で本を読み、判断することです。
私の(母親教室の)母親たちは、自分たちの忍耐力のレベルにあわせて、このファーバー方式を修正して、応用しています。
Dr. Ferber is the first one to tell parents that his method can take a toll on the family. Some parents cannot bear to hear their children cry for extended periods of time. Ferber states in his book that in order for his approach to work it is very important to stick with the routine. There are no exceptions unless your are traveling , your child is sick or you have company at your house. If you disrupt your babies sleep schedule and they start to wake up during the night again you will probably have to referberize the child.
ファーバー博士は、この方式は、母親の負担を減らすものだと、述べています。
母親によっては、(忍耐の限界を超えて)赤ちゃんが泣きつづけることに耐えられない。
ファーバー博士は、この本の中で、この方式を応用するためには、日常生活をそのままつづけることが重要だといいます。
旅行中とか、赤ちゃんが病気とか、来客中とかいうのであれば別ですが、例外はないといいます。
もし赤ちゃんの睡眠スケジュールを乱すと、赤ちゃんをあやすために、また夜中に起きなければならなくなります。
In his method Dr. Ferber suggest that after a loving pre-bedtime routine that you put
your child to sleep while your baby is still awake. Putting your child to sleep while he/she is still awake is very important and this will teach them to go to sleep on their own.
この方式の中で、ファーバー博士は、赤ちゃんがまだ目をさましていても、赤ちゃんを寝さかせ、いつもの就眠儀式をすることを提案しています。
まだ目をさましている赤ちゃんを寝させることは、とても重要なことで、このことが、赤ちゃんが自分で眠ることを教えます。
Ferber suggests that children be at least 5 months old before you try to ferberize them.
Your baby must not be sick, or on any medications that will interfere with his/her sleeping when you start the method. Once your child is in bed leave the room and if she/he cries, wait a certain amount of time before you check on your child again.(the waiting time is outlined in his book,
ファーバー博士は、少なくとも五か月未満の赤ちゃんは、この方式を応用してみるとよいと言っています。
この方式をはじめるときは、まず赤ちゃんが病気でないないことが前提となります。
赤ちゃんがベッドに入ったら、赤ちゃんが泣いても、(親は)部屋を出ます。
そしてしばらく様子をみます。
(その時間については、本の中のガイドに従ってください。)
(Solve Your Child's Sleep Problems). After the "waiting time" check in on your child but do not rock, feed or pick her/him up. Soothe your child only with your voice. Gradually increase the amount of time between the visits to your child's room. Eventually (usually within a week) your child will realize that crying means nothing more than a brief check from you. He or she will learn to sleep on his/her own through the night and you will also get the sleep that you have been deprived of for so long.
赤ちゃんの睡眠問題を解くために……
しばらく待ってみて、赤ちゃんをチェックし、赤ちゃんを抱いてあげます。
あなたの声で、赤ちゃんをあやします。
少しずつ、赤ちゃんの部屋を訪問する時間を長くしていきます。
結果として(ふつう一週間単位で)赤ちゃんは、泣いても無駄ということを学びます。
そして赤ちゃんは夜の間、眠るようになります。
あなたも眠られるようになります。
Ferber states that it's ok for your child to throw a tantrum or to cry for extended periods of time this will not hurt your child. He/she will realize that crying will get them nowhere. To ferberize or not ferberize is a decision that only you and your partner can make. Here's what some parents are saying about the Ferber Method.
ファーバー博士は、赤ちゃんがかんしゃくを起こし、ある程度の間泣いても、この方式は、赤ちゃんを傷つけないといいます。
赤ちゃんは泣いても、何も解決しないことに気づきます。
ファーバー方式を使うにせよ、しないにせよ、それはあなたが決めることです。
ここにいくつかコメントがあります。
" I hated it. I just couldn't ! let my child cry not even for 5 minutes". Jody
「この方式は、嫌いです。私は五分だって、子どもには泣かせることはできません」
" I was so exhausted I couldn't do anything. His method saved my life." Sonia
「私は疲労しました。彼の方式は、私を救いました」
"It's great to have a formula to follow. It worked with all my kids." Maria
「すばらしい方式です。私の子どもたちには、有効でした」
●はやし浩司より
このファーバー方式は、アメリカでは広く知られている。子育て(parenting)の指導法としても、一定の地位を確立しつつある。
私も、外国へ行くと、よく書店をのぞいてみる。向こうでは、いわゆる「教育書」と「育児書」が、ほぼ、同じ割合で、並んで書店に並んでいる。一方、この日本では、育児書の多くは、書店の目立たないところに、ひっそりと並んでいる。このあたりにも、「家庭教育」に対する認識の違いがある。つまりこの日本では、「何でも幼稚園や保育園で……」という考え方が強く、一方、欧米では、「子育ては家庭で……」という考え方が強い。
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以上の訳について、読者の方より、「訳がおかしい」
という指摘をもらった。
東京M区に住んでいる、SKさんという方からです。
ご指摘ありがとうございました。
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【SKさんより……】
ファーバー方式の和訳についてひと言。英文の解釈が少し違うような気がするのですが、もう
一度注意深く読むと良いかと……特に Ferber suggests that children be at least 5 months old before you try to ferberize them. とAfter the "waiting time" check in on your child but do not rock, feed or pick her/him up. のくだりです。私には、「赤ちゃんが少なくとも五ヶ月に達していること」と「抱き上げたりおっぱいなどを与えるな」と解釈できるのですが……
Hiroshi Hayashi++++++はやし浩司(ファーバー方式)
●基本的信頼関係
K男君(3歳児)の症状からすると、基本的には、(1)対人恐怖症があり、(2)母子間における基本的信頼関係の構築に失敗した子どもと考えられます。
子どもの側からみて、0歳期に絶対的な安心感を得られなかった。
一方、母親側からみて、絶対的な受け入れをしなかった。
「絶対的」というのは、「疑いをもたない」という意味です。
対人恐怖症を疑うのは、K男君の家庭環境からです。
「家族構成は、両親 祖父母(母方 別姓) 曾祖父母 本児」ということですから、かなりの過保護、過干渉、祖父母による溺愛などが、想像できます。
つまりK男君は、(ものわかりのよい、実に温室的な家庭環境のみの中で育てられた)という印象をもちます。
俗にいう『温室育ち、外で風邪を引く』というのがそれですが、このタイプの子どもにとっては、集団教育の場は、まさに「野獣群れなす、野生の世界」ということになります。
対人恐怖症になってもおかしくありません。
別の形で現れるのが、いわゆる場面緘黙症ということになります。
泣きながら、抑圧された心を発散させる……。
そういう点では、場面緘黙症よりは、予後はよいということになります。
●ついでに……
最近の研究によれば、人間にも刷り込み(インプリンティング)があることがわかってきました。
0歳から7か月前後までがその期間と言われています。
「敏感期」と呼ぶ学者もいます。
この時期の母子関係がいかに重要かが、これでよくわかります。
つまりこの時期に、子どもの側からみて、何らかの理由で、「絶対的な安心感」を覚えられるような家庭環境ではなかったということが、考えられます。
それが遠因となり、強迫症、潔癖症、完ぺき主義へと進んだと考えられます。
引きこもりも含めて、うつ病の原因は、その子どもの乳幼児期にあると考える学者もふ
えています。たとえば九州大学の吉田敬子氏は、このころの基本的信頼関係の構築が失敗すると、おとなになってからうつ病などの病気を起こしやすくなるというようなことを論文で発表しています。
いわく『九州大学の吉田敬子氏は、母子の間の基本的信頼関係の構築に失敗すると、子どもは、「母親から保護される価値のない、自信のない自己像」(九州大学・吉田敬子・母子保健情報54・06年11月)を形成する』と。
さらに、心の病気、たとえば慢性的な抑うつ感、強迫性障害、不安障害の(種)になることもあるという。
それが成人してから、うつ病につながっていく、と。
乳幼児期における母子関係がいかに重要なものであるかは、いまさら言うまでもありません。
K男君のケースでは、まずこの母子関係の不全、あるいはその時期の育児の失敗を考えてみます。
「母親の運転する車に乗せて2人で外出することはできず……」という部分が気になります。
ほかに何か理由があるのかもしれませんが……。
●強迫性障害
乳幼児にも強迫性障害はあります。
母子分離不安がその典型的な例です。
(母親の姿が見えない)→(「捨てられるのではないか」という極度の不安状態になる)→(突発的に錯乱状態になる)
このばあい、私は私の観察から、プラス型とマイナス型に分けて考えています。
大声をあげ、泣き叫びながら母親のあとを追いかけるのを、プラス型。
極度の不安状態になってしまい、オドオドと混乱状態になってしまうのを、マイナス型。
K男君のケースでは、本来、そうした強迫性障害、あるいは不安障害も考えられますが、泣き方を観て判断します。
で、もしそうであれば、本来、こうした障害は、母親に起因します。
K男君の下の子ども(弟or妹)がいないということなので、今回は、赤ちゃん返りは除外します。
(世間一般の人は、赤ちゃん返りを軽く考える傾向がありますが、これはとんでもない誤解です。
子どもの心を基本的な部分でゆがめ、症状がこじれると、さまざまな障害を引き起こします。)
が、その母親に対して、自分の欲求不満をぶつけることができない。
理由は、母親自身にあると考えられます。
母親自身が、心の閉じた女性(同じく乳幼児期に基本的信頼関係の構築に失敗した)か、あるいは、何らかの障害(自閉症、緘黙症、アスペルガーなど)をもっている。
さらに言えば、子どもへの愛情が欠落している。
(実際、自分の子どもに愛情を感じていない母親は、7~10%もいる。
母親の表面的な演技には、惑わされないように!)
そこでK男君は、慢性的な愛情飢餓状態を代償的に解消するために、つまり母親代わりに、あなたという教師に、愛着行為をぶつけているということになります。
(祖父母たちと同居していて、愛情飢餓……というのもおかしいと思われるかもしれませんが、基本的信頼関係は、あくまでも母子間の1対1の関係で構築されるものです。)
が、あなたとて、ほかに20人前後の幼児をかかえている。
そこでK男君は、(泣くこと)によって、自分の感じている不安を解消しようとすると同時に、懸命に、あなたの同情を誘導している。
つまりそういう点では、先に書いた、「攻撃型同情型」ということになります。
あなたが自分の(範囲)にいる間は、静かに落ち着いている。
しかしそうでないときは、そうでない。
錯乱状態になる。
こうした一連の行為は、本人の意図的な行為というよりは、本能的な行為に近いので、叱ったり、説教しても、意味はありません。
赤ちゃん返りを思い起こしてみてくだされば、それがわかると思います。
6歳児が、赤ちゃんぽい言い方で、おしっこを漏らすなど。
つまり本能的な部分で、「嫉妬」がからんでいるため、簡単には治らない(=直らない)ということです。
で、K男君のばあいは、どうでしょうか。
泣き方を観察してみると、それがわかるのですが……。
ただシクシクと泣くだけなのか?
それとも、錯乱状態になって泣くのか?
●私の経験から
数年前ですが、Uさん(年少女児)がいました。
レッスンのときにも、体がこわばっているのが、よくわかりました。
緊張性対人恐怖症と考えていました。
「とくに男の人がこわいみたい」と母親は、よく言っていました。
(そういう点では、対人恐怖症ということになりますが……。)
母親に横に座ってもらったり、あるいは抱っこしてもらったりしました。
が、何かの拍子に、(たとえば自分の作業が遅れたりすると)、そのままメソメソと泣き出してしまいました。
で、こういうときは、『涙は、脳の汗』と考え、私は無視します。
あれこれと理由を聞いても意味はないし、なだめても、これまた意味がありません。
本人にも、泣いているという意識がありません。
また「泣くことが悪いこと」という意識もありません。
ただそういうときは、母親に手を握ってもらったり、あるいは抱っこしてもらうように指示しました。
幸い、母親が、たいへん理解のある、心のやさしい人でした。
ほかの親たちも参観していましたが、ほかの親を気にせず、子どもの立場で子どもの心を守っていました。
その子どもは年中児になるころには、泣く回数もぐんと減り、さらに夏を過ぎたころには、自分のほうから手をあげ、意見を発表するようになりました。
それをみなで、何度もほめました。
以後、急速に症状は改善しました。
で、今から思うと、原因のひとつが、姉にあったのではないかと思います。
姉もやさしい子どもでしたが、しかしそれは表面的な姿。
裏では、結構、妹をいじめていたのではないか?
今になって思うと、そんな気がします。
(反動形成により、よい兄、よい姉を演ずるケースは、たいへん多いです。)
●母親指導はタブー
今、K男君は、母親代わりに、あなたに愛情を求め、自分の心の隙間を埋めようとしています。
心理学的には、いろいろな用語で説明できますが、ここで重要なことは、しかし今、ここであなたがK男君を突き放してしまうようなことをすると、K男君は、確実に、心をゆがめるということです。
不登園児になる可能性も高いです。
よく知られた症状に、ツッパリがあります。
子ども(幼児)は、環境の変化にはたいへんタフですが、愛情の変化には、たいへんもろい。
私が経験した中で、ツッパリ症状の出た子どもで最年少は、小学1年のI君でした。
それまでは両親の間で、川の字になって寝ていたのですが、小学1年の夏休みに子ども部屋を作ってもらい、そこでひとりで寝るようになりました。
とたん、あのツッパリ症状です。
鋭い横目で人をにらんだり、独特の歩き方、そして暴力的暴言。
そこで母親にそれを話し、以前のように再び、川の字で寝るようになったとたん、症状がウソのように消えてしまいました。
原則として、今はたいへんかもしれませんが、「私は母親代わりをしている」という意識をもち、K男君に接するしかありません。
時期的には、満4歳6か月の、幼児期前期から後期への移行期までつづきますが、それ以後は自立心が育ち、徐々に、先生から心が離れていきます。
(本来なら、母親が、その役目をしなければならないのですが、仕事をもっていること。
また母親自身の心理状態、情緒問題などがわからないので、ここでは考えないことにします。
またこうした問題を、直接、母親にぶつけるのは、タブーと考えてください。
いわんや、強迫観念、母子分離不安、不安障害などの専門用語を口にするのは、タブー中のタブーです。
そうした用語を口にできるのは、ドクターだけ。
小学校の先生でも、それで、クビが飛んだケースもあります。
母親のほうから相談があれば別ですが、教師のほうから問題を提起するのも、タブーです。
いらぬ混乱を招くか、あるいはばあいによっては、園長を巻き込んだ騒動に発展します。
私も何度か、……数え切れないほど、そういう苦い失敗をした経験があります。
『子どもを直すより、親を直す方がむずかしい』と考えてください。
つまり教師は、教師のできる範囲で、懸命にし、それですますということです。
たいへんきびしい言い方をしますが、私たちのできることにも、限界があるということです。
たとえば最近も、明らかに母親の過関心、過干渉が原因で萎縮してしまった子ども(年長女児)がいました。
が、そういう母親にかぎり、「私がぜったい正しい」「子どものことは、私がいちばんよく知っている」と、私の言うことに耳を傾けようともしません。
むしろ反対に、「伸び伸びと明るい子ども」を、「できの悪い子」「しつけがなっていない子」と決めつけてきます。
で、入会して数か月もたたないうちに、「このクラスでは、ほかの子どもに圧倒される」という理由で、そのまま去っていきました。
こういうケースのばあいで、もう打つ手なしです。
「そうですか、ごめんなさい」という言い方をし、後ろ姿を見送るしかありません。
●K男君
現在の家庭環境からすると、母親の協力を得るのはむずかしそうですね。
それにK男君自身が、先にも書いたように、母親に対して、ある種の恐怖心をもっているようにも感じられます。
つまり「おかあさん……」と言って、心を開いて甘えられる環境にないということです。
全幅的に心を開くことができない……。
つまり基本的信頼関係の構築に失敗しているというわけです。
(本来なら、そういうことができればよいのですが……。)
ただ回避障害による症状とは、ややちがうかもしれません。
引きこもり的、あるいは場面かん黙性があるなら、回避性障害も疑われます。
では、どうするか……。
母子分離不安に準じて、つぎの2つに心がけてみてください。
(1)求めてきたら、すかさず愛情表現をして返す。
ほどんどの子どもは、ほんの瞬間(10~30秒)、ぐいと抱いてあげるだけでも満足し、体を離します。
(ばあいによっては、数秒で、すみます。)
子どもは、相手の愛情を試すためにそうします。
そのとき「あとでね」「忙しい」は、禁句です。
求めてきたら、すかさず、です。
(2)温かい無視を繰り返す。
いつも目を注ぎながら、愛情をこめて無視します。
子どもが何かの行動をしているときなど。
子どもの心は敏感です。
おとなが考えているより、はるかに敏感です。
相手のわずかな視線の動きをとらえ、相手の心の状態を判断します。
愛情だけは忘れず、温かく無視します。
●情緒障害
もちろん何かの情緒障害も疑われます。
強迫性障害(「おしっこが出たらどうしよう」「今日の帰りは、並ぶ?」など、先のことを心配して、何度も何度も同じことを繰り返し言って泣く)、不安障害、恐怖症、対人恐怖症(児童館に連れて行く機会があったが、みなと行けなかった)、神経症(おしっこの心配をする)、自閉症スペクトラム(集団の中で引きこもってしまう)などなど。
しかしそうであっても、これらのほとんどは、年長期(幼児期後期)にかけて、脳が発達すると同時に、脳そのものの機能的な発達とともに、症状は改善していきます。
(ADHD、場面かん黙は、小学3年生前後で、改善に向かいます。)
大切なのは、症状をこじらせないことです。
こじらせると、あとあとの立ち直りが難しくなります。
あとは食生活の改善です。
海産物の多い食生活(Ca,Mg,K)に切り替える。
それだけでも、情緒不安症候群は、かなり改善します。
日常的に、甘い食品(白砂糖の多い食生活、たとえばアイス、ジュース類)が多いと、低血糖になり、情緒が不安定になります。
昔からイギリスでは、『カルシウムは紳士を作る』と言われています。
また戦前は、カルシウムは、精神安定剤として使われていました。
詳しくは、また「はやし浩司 砂糖は白い麻薬」で検索してみてください。
いくつかをヒットするはずです。
以上ですが、あくまでも私の意見は、参考程度にとどめてください。
実際の子どもを観ているわけではありませんので……。
またそのため、話があちこちに飛んでしまいました。
どうかお許し下さい。
同じ指導者の立場として、最後に一言。
何かのついでにそういう話になったら、K男君の母親の過去をさぐってみるとおもしろいですよ。
K男君の母親の家庭環境、母親とそのまた母親(祖母)との関係など。
幼児教育の奥の深さがわかってもらえると思います。
K男君は、「家族の代表」にすぎないのですから……。
つまり現在、K男君のかかえている心の問題は、家庭環境が原因で生まれた「結果」でしかないということです。
つまりそういう視点をもつと、幼児教育の世界が、ぐんと広がっていきます。
それこそ「人間学」の世界まで広がっていきます。
では、今日はこれで失礼します。
メール、ありがとうございました。
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2011/09/13記
Hiroshi Hayashi++++++Sep. 2011++++++はやし浩司・林浩司
2011年9月13日火曜日
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