●ほたる(Firefly)(7月17日)
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夜中にふと、窓の外を見た。
時刻は午前2時ごろ。
ワイフがトイレに起きた、そのあとのことだった。
網戸と窓が見えた。
が、その向こうに、なにやら光るもの。
ぼんやりと、やさしく光っては、
おなじようにやさしく消える。
私は思わず、声をあげた。
「ほたる!」と。
その声に驚いて、ワイフが寄ってきた。
「あら……」と。
網戸を開けた。
窓の外を見た。
1つや2つではなかった。
20……、
30……。
それぞれが深い草の中で光っていた。
うれしかった。
どういうわけか、うれしかった。
「ほたるだよ」
「本当ね、ほたるだわ」
「こんなところに出るなんて!」
「こんなところに出るなんて!」と。
窓からは数メートルも離れていない。
裏手が低い土手になっている。
そこにほたるはいた。
飛んでいなかった。
枝につかまって、じっとしていた。
そんな様子だった。
私とワイフは、時間を忘れて、
その光に見とれた。
……子どものころが思い浮かんできた。
私はかごにつめたほたるを、一晩中ながめていた。
独特のにおい。
そしてあの光。
そんな自分が、たまらなく懐かしい。
「まだ幼虫なのかしら」とワイフが言った。
「そうかもね……」と。
私は懐中電灯を手にすると、庭に出た。
土手に向かった。
ほたるは、まだそこにいた。
私に警戒するふうでもなく、やさしい光を
放っていた。
ホワ~ンと光り、またホワ~ンと消える。
それを静かに繰り返していた。
が、懐中電灯でそのあたりを照らすたびに、
写真のネガとポジが入れ替わるように、
景色が一変する。
遠近感が狂う。
光る方向をしっかりと定めながら、
懐中電灯をつける。
数回、それを繰り返す。
「いた!」
細い枝に、5ミリ~1センチくらいのホタル。
まだ色は茶色い。
幼虫のようだ。
枝ごと折る。
ワイフに見せたかった。
が、折ったとたん、どこかへ消えた。
「ま、いいか」と思って、その場を去る。
再び、うれしさがこみあげてきた。
裏庭で、ほたるを見た。
自分の家の裏庭で、ほたるを見た。
それがどういうわけだか、うれしかった。
家に入り、再び寝室へ。
が、ワイフは、もういびきをかいて眠っていた。
のんきな女性だ。
私は静かにふとんをかぶると、電灯を消した。
「どうすれば写真に撮れるだろう……」と、
そんなことを、私は懸命に考えていた。
「今度のコンデジではだめだろうか?」と。
この夏に、もう一度、チャレンジしてみる。
ほたるの写真を撮ってみる。
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2010/07/17朝
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